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名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)475号 判決 1967年6月27日

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人らに対し別紙目録記載の建物について昭和三七年一一月二七日付遺贈を原因として各一六、〇六〇、〇〇〇分の五〇二八、一三五宛の共有持分移転登記手続をせよ。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人その余を被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および書証の認否は、左記のほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

(控訴代理人の陳述)

一、控訴人の被相続人訴外亡新見〓やうが相続開始の時において有した財産は次のとおりである。

(1)  被控訴人らに対する保管金債権金一〇九万三、七五九円

(2)  別紙目録記載の建物(以下本件建物という、価額一六〇万六、〇〇〇円)

(3)  本件建物の敷地名古屋市北区山田町四丁目四四番宅地三〇〇、五三平方米(九〇坪九五一)に対する賃借権(価額二七二万八、五三〇円)、右敷地は訴外新見〓やうが本件建物を築造した古い時代から訴外飯田宗治郎より賃借していたものである。

二、控訴人の遺留分は、前記(1)ないし(3)の財産価額の合計金五四二万八、二八九円の二分の一すなわち二七一万四、一四四円となるところ、訴外新見〓やうは右(2)の本件建物および(3)の賃借権を被控訴人らに遺贈しているので、右遺留分より前記(1)の金一〇九万三、七五九円を控除した金一六二万三八五円が不足分となる。

三、右不足分を本件建物および前記賃借権の各価額の割合により減殺するときは、本件建物の価額より金六〇万三七三円(一六二万三八五円の四三三四五三〇分の一六〇六〇〇〇)が減殺され、右賃借権の価額より金一〇二万一一円(一六二万三八五円の四三三四五三〇分の二七二八五三〇)が減殺されることとなる。従つて、本件建物に対する被控訴人らの取得部分は金一〇二万一二円(一六〇万六、〇〇〇円より六〇万三七三円を差引いたもの)となり、これを割合にすれば、控訴人一六二〇三八五分の六〇〇三七三、被控訴人ら一六二〇三八五分の一〇二〇〇一二となる。

四、よつて、仮に本件遺贈が有効であるとしても、控訴人の減殺の意思表示により被控訴人らは本件建物につき各自一六二〇三八五分の一〇二〇〇一二の二分の一の共有持分を取得するに過ぎないものであつて、各自二分の一宛の共有持分を有するとしてこれが移転登記手続を控訴人に求める被控訴人らの請求は失当である。

(被控訴代理人の陳述)

訴外亡新見〓やうが相続開始の時において有した財産は、控訴人主張の保管金債権のほかは本件建物およびその敷地に対する賃借権であることおよび本件遺贈の目的は本件建物およびその敷地に対する賃借権であることを認める。

立証関係(省略)

理由

本件建物が訴外亡新見〓やうの所有であつたこと、同訴外人が昭和三七年一一月二七日公正証書をもつてその妹である被控訴人らに本件建物およびその敷地(控訴人主張の土地)に対する賃借権の各二分の一宛遺贈する旨の遺言をしたこと、右訴外新見が昭和三八年八月一六日死亡したこと、控訴人において本件建物につき昭和三八年九月二日相続を原因として所有権移転登記を経由したことは当事者間に争いがない。

そこで控訴人主張の遺言無効の抗弁について判断する。

控訴人は、本件遺言当時右訴外新見が精神状態正常でなく意思能力を欠いていたと主張するが、原審における証人高橋義男の証言および控訴人本人尋問の結果中右主張に添うような部分は、成立に争いのない甲第一号証原審証人堀内斎および当審証人瀬尾伊太郎の各証言と対比してたやすく措信し難く、他にこれを認むべき証拠はないから右主張は採用できない。

次に控訴人は本件遺贈の減殺を主張しているので審按する。

原審における控訴人本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、控訴人は右訴外新見の養子として同訴外人を相続したことおよび同訴外人の相続人は控訴人ひとりであることが認められる。

右認定によると、控訴人は同訴外人の遺産に対し二分の一の遺留分を有すること明らかであり、控訴人が本訴において被控訴人らに対し減殺の意思表示をしたことは本件記録上明白である。ところで、右訴外新見が相続開始の時において有した財産は、控訴人主張の被控訴人らに対する保管金債権金一〇九万三、七五九円、本件建物および本件建物の敷地の賃借権だけであることは当事者間に争いがなく、当審における鑑定人早川友吉の鑑定の結果によると、右相続開始時(昭和三八年八月一六日)における本件建物の価額は金一六〇万六、〇〇〇円(一坪当り単価金二万円)、右賃借権の価額は金二七二万八、五三〇円(一坪当りの単価金三万円)であることが認められる。そして、右財産より控除すべき訴外新見の債務については控訴人も被控訴人らも何ら主張をしていないので、控訴人の遺留分は右保管金債権、本件建物および右賃借権の価額合計金五四二万八、二八九円の二分の一すなわち金二七一万四、一四四円(円未満切捨)となる。右遺留分と控訴人が相続によつて取得した右保管金債権金一〇九万三、七五九円とを対比すると、控訴人は本件遺贈により金一六二万三八五円につき遺留分の侵害を受けたことになる。本件建物および右賃借権の価額は前記認定のとおりであるから、右価額の割合に応じて減殺するときは、本件建物の価額より金六〇万三七三円(円未満切捨)が減殺され、右賃借権の価額より金一〇二万一一円(円未満切捨)が減殺されることとなる。従つて、控訴人の減殺請求により本件建物に対する被控訴人らの取得部分は金一〇〇万五、六二七円(控訴人は金一〇二万一二円と主張するが、誤算であることその主張自体から明らかである)となり、結局本件建物は、控訴人一六〇六〇〇〇〇分の六〇〇三七三〇の持分、被控訴人ら各自一六〇六〇〇〇〇分の五〇二八一三五宛の持分による共有関係になつたものといわなければならない。

そうすると、控訴人は被控訴人らに対し本件遺贈を原因とし本件建物につき被控訴人らの右各持分について移転登記手続をなすべき義務があるものとなすべく、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は右の限度で正当として認容すべきも、その余を失当として棄却すべきものである。

よつて原判決を変更し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

名古屋市北区山田町四丁目四四番地上

家屋番号三八番

一、木造瓦茸二階建居宅

床面積一階  四五坪(一四八、七六平方米)

二階  三五坪三合(一一六、六九平方米)

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